ふっと、浮上する意識。
 そっと瞼を開くと、まだ戸板の開かない暗い部屋は、全ての輪郭をその闇に覆われていた。
 時間はそう、まだ夜が明ける前。
 いつもこの時間に目が覚めるから。
「・・・・・・」
 じっと、妖の目で見つめる先には仁吉の寝顔。
 穏やかなそれは、ひどく自分を安心させる。
 そっと、その細く白い指に、自分のそれを絡ませる。
 触れ合った箇所から流れ込んでくる体温が、心地良い。
「・・・・・」
 思わず、笑みが零れる。
 その全ての所作も、いつものことで。
 その全ての所作を、仁吉は知らない。
 教えてもやらない。
「・・・好きだよ」
 いつも呟く、声になるかならないかの囁きは、誰に受け止められることなく、穏やかな部屋の空気に混じって消える。
 それで良かった。
 絶対に、教えてなどやらないのだから。
 自分が、この一時をひどく愛おしく思っていることなんて。
 教えてやらない。
 絶対に。
「・・・・・」
 この無防備なまでの寝顔が見れるのは、自分だけ。
 自分だけで良い・・・。
 絡ませた指はそのままに、再び訪れた睡魔の波に、そっと瞼を閉じる。
 やがてゆっくりと、意識は闇へと呑まれていった―。

  
 ふっと、浮上する意識。
 そっと瞼を開くと、まだ戸板の開かない暗い部屋は、全ての輪郭をその闇に覆われていた。
 時間はそう、まだ夜が明ける少し前。
 いつもこの時間に目が覚めるから。
「・・・・・」
 じっと、妖の目で見つめる先は、もうすぐ起き出すであろう佐助の寝顔。
 穏やかなそれは、何故だかひどく自分を、安心させる。
 ほんの微かに力を込める、いつの間にか絡んだ指先。
 触れ合った箇所から流れ込んでくる体温が、愛おしい。
「・・・・・」
 思わず、笑みが零れる。
 その全ての所作も、いつものことで。
 その全ての所作を、佐助は知らない。
 教えてもやらない。
「・・・好きだよ」
 いつも呟く、声になるかならないかの囁きは、誰に受け止められることなく、穏やかな部屋の空気に混じって消える。
 それで良かった。
 絶対に、教えてなどやらないのだから。
 自分が、この一時をひどく愛おしく思っていることなんて。
 教えてやらない。
 絶対に。
「・・・ん」
 視線の先で、佐助が微かにその睫を振るわせる。
 そう、ちょうどこの時間。
 いつも通りに、目覚める時間。
 絡ませた指に、更にきゅっと、力を込めた。
「・・・ぁ・・・にきち・・・?」
 焦点の定まらぬ目が、ぼんやりと自分を捕らえる。
 そう、それでいい。
 一番先に、その目に映るのは、自分で良い。
「おはよう・・・」
 多分、自分はひどく優しい顔をしているんだろうなと、ぼんやりと思う。
「・・・おはよう」
 返してくる佐助の顔が、ひどく優しいから。
 

 変わらないいつもの光景。
 変わらない感情。
 そして変わらない、いつもの秘密事。

  
 けれど、お互いは気付かない。
 それはいつも、変わらず交わっていることを―。