ぎゃあぎゃあと騒がしい声に、眠りが妨げられ、目を覚ます。
 呻きながら身を起こすと、隣の巧は、もうすでに身支度を整えていた。
 開ききらぬ目で時計を見遣れば午前五時。
 外はまだ、薄墨を伸ばした様に薄暗いことだろう。
「何でこんな早くに置きなアカンねん・・・」
 低く呟くと、それを聞きとめた巧が、呆れたように言う。
「俺、いつもこの時間にランニング出てるけど」
「あー・・・俺ランニング夜派やねん」
 言いながら、ようやっと身を起こした。
 乱雑に放り出され、散らかったものを器用に避け、瑞垣はカーテンを開く。
 寒々とした冷気が、ガラス越しに伝わってきて、思わず身震いする。
 寝起きの体には、寒い。
 案の定、外はまだ暗い。 
 葉を全部落とし、寒々とした姿を晒す庭木には、以前は渡り鳥だったはずの椋鳥が、ぎゃあぎゃあと喧しい声で鳴いていた。
 毎朝毎朝、いつもこの時間に鳴き出すので、いつも叩き起こされる。
 不幸なのは本能のサイクルを変えられた彼等なのだろうが、毎日早くから叩き起こされる自分を嘆いてしまうのは人間の身勝手さか。
 渡ることを忘れた鳥は、瑞垣の目の前で尚も鳴く。
「うるっさいわっ!渡り鳥の癖に年がら年中鳴きやがって・・・」 
 その言葉に、巧が驚いたように、小首を傾げる。
「あの鳥って渡り鳥なのか?」
 その言葉に、瑞垣はそんなことも知らぬのかと、苦笑した。
「椋鳥や。今は年がら年中居てるけどな」
 言うと、ふーんと興味なさ気な返事が返ってくる。
 ぎゃあと、窓の外で又、椋鳥が鳴いた。
「あーっ!うっさいっ!」
 叫び、巧の肩を掴んでその体ごと、ベッドに倒れこむ。
 成長期の男二人分の体重を受け止めたベッドが、ぎしりと悲痛な悲鳴を上げた。
「おいっ!」
 気色ばむ声と共に、腕を振り払われ、大した力も入れてなかったのであっさり体を引っぺがされて逃げられる。
「あー…三千世界の椋鳥殺し主と朝寝がしてみてぇ…」
 うつ伏せのまま、低く呟く瑞垣に、巧が訳が分からぬという視線を投げ寄越す。
 椋鳥の声が、また響いた。