「んぁ…」

 掠れ、熱を帯びた声が、零れ落ちるのを止められない。
 指を這わされ、ひくりと震える度、降ってくる忍び笑いに、一層、嬌羞に上気した肌は、朱を帯びる。

「ひ…っあぁ…っ」

 唐突に、きつく、胸の突起を捻り上げられ、屏風のぞきは思わず、目を見開く。
 その目尻からぼろぼろと、涙が零れた。
 それでも、痛みの中、確かに、快楽が走るのを否めなくて。
 悲痛な悲鳴の中に、どこか甘さが滲む。
 何度も首を打ち振り、やめてくれと、仁吉の手首に絡ませる指にも、力が入らない。
 恨めしげに睨めば、返って来るのは、今だ怒気を含んだ視線。
 強いそれに、びくりと、身が竦む。
 惑乱する頭の中、何故こんなにも仁吉が怒るのか、未だ屏風のぞきには解せなくて。
 怖い程に綺麗な笑みを向けられ、怯えの色が、泣き濡れた目に滲むのが隠せない。
 その、掴んだままの手を捕らえ、舌を這わされる。
 深く銜え込まれ、指の股まで丁寧に舐め上げられ、捕られえた手に震えが走る。

「ふ…っぁ…」
 
 堪え切れずに声を漏らせば、一層、意地の悪い笑みを向けられた。

「……」

 屏風のぞきの、涙で潤んだ目が、不安気に揺れる。
 その表情が、一層、相手を煽ると、気付いているのかいないのか。
 反射的に手を引こうとすれば、軽く歯を立てられ、小さな痛みに阻まれる。

「な…に…」

 唇を離すと、掴んだ手は離さぬまま、にこりと、向けられる底意地の悪い笑みに、瞳に滲む、怯えの色が、いっそう濃くなる。
 問いかけるその声は、己でも情けないほどに、掠れていて。
 けれど仁吉は無言のまま、掴んだ手に己の指を添え、屏風のぞきの後孔へと、這わす。

「嫌…だ…ぁっ」

 意図を察し、ざわりと、全身が総毛立つ。
 咄嗟に手を引こうとしたけれど、非情な手は、つぷりと、唾液で濡らした指を差し入れてきて。

「あぁ…っ」

 羞恥と屈辱に、堪え切れずに、屏風のぞきは何度も頭を左右に力なく打ち振った。
 敷き布に散らばる髪が、その動きに合わせ、奇妙な曲線を描く。
 指を引き抜こうとすれば、仁吉の指も添えられているので叶わず、逆に己の指で内壁を掻くこととなり、ざわりと這い上がってくる快楽に、掠れた悲鳴を上げる。
 己で作った刺激に、内壁がきゅっと絡みつき、屏風のぞきの指を締め付ける。

「お前は指も弱いからねぇ…自分でやって感じるんだろ」

 耳元に落とされた恥辱に塗れた囁きに、羞恥に硬く閉じていた目を思わず、見開いていた。
 目尻に溜まっていた涙が、流れ落ちる。

「ちが…っ」 

 否定の言葉はけれど、今度は仁吉の指に中を掻き乱され、消えてしまう。
 いやいやをするように、強く打ち振る髪が、敷き布を流れる。

「嫌だ…も…やめ…っ」

 悲痛な哀願。
 しかし、言葉とは裏腹な反応を、身体は示していて。
 何度も何度も、仁吉の指が、屏風のぞき自身の指と共に内壁を、ある一点を、責め上げる。

「ひぁ…ぁあ…っ」
 
 快楽に、思考が空白になっていく。
 更なる刺激を求め、内壁が切なげにひくつき、痛いほどに、屏風のぞき自身の指を、締め付ける。

「欲しいかい?」

 意地悪く、口角を吊り上げて落とされる囁きに、羞恥も自尊心も捨てて、こくこくと頷く。

「じゃあ自分で馴らしてみなよ」

 一瞬、言葉の意味が分からなかった。
 涙で滲む視界の向こう、見上げれば、返って来るのはいっそ優しげな笑み。
 
「何…を…」

 言っているんだと、続く言葉は、不意に指を引き抜かれ、唐突に消えた刺激に、切なげに漏れた声に掻き消えた。
 けれど、屏風のぞき自身の指は、手首を押さえ込まれ、抜くことは赦されず。
 仁吉の指の腹に、円を描くように後孔をなぞられ、その妖しい感覚に、身体が震えた。

「まだ入れるには固いからねぇ…欲しいなら自分で慣らしな」

 非情な声は、けれど、どこか楽しげな色を滲ませて。

「や…悪かったよ…あたし、が…悪かっ…から…」
 
 常なら、絶対に己から膝を突くことなどありえない。
 それでも、これ以上無い屈辱に、思わず、赦しを請う言葉を口にしたけれど。

「…早くしな」

 返ってくるのは、やはり、未だ怒気を含んだ視線。
 嫌だと、出来ないと首を打ち振ってみたけれどけれど、突き上げてくる衝動は、堪えることができなくて。
 
「…っう…」

 震える指を、そっと、己の中へ差し入れる。
 羞恥と屈辱に、知らず、涙が零れた。

「動かさなきゃあ意味無いだろうが」
 
 呆れたような声に、反射的に睨みつければ、己を見つめる双眸にぶつかって。
 途端、見られているという事実を突きつけられ、羞恥に、膝を閉じようとすれば、膝頭を押さえられて適わない。
 
「嫌…だ…っも…見る…な…っ」

 涙に掠れた、切れ切れの哀願にも、返って来るのは忍び笑いだけで。
 立てられた膝頭が、震える。
 恥辱に塗れた行為に、逸らした頬から、涙が落ちた。

「とっととしなきゃあ、そのまんまだよ」

 揶揄するような声はけれど、本気だと、屏風のぞきは経験から知っていて。
 羞恥に震える指で、それでも、そっと己の内壁を弄る。

「ぅあ…っ」

 途端、背筋を駆ける快楽に、身を反らす。
 嬲られ、焦らされたそこは、ひどく敏感になっていて。
 微かな刺激にも、快楽を得ようと収斂する。
 
「ぁ…あぁ…っ」

 きつく、指を締め付けるのに、また、感じてしまう。 
 ひどい羞恥と屈辱の中で、見出すのは被虐的な快楽。
 震える指はただ、快楽を追い始めていて。
 内壁を擦り上げるたび、締め付けられ、それは更なる熱を呼んで。
 
「…淫乱」
「―――っ」

 落とされた囁きに、身体を這う視線に、意識が侵される。

「は…っぁ…」

 妖しいその感覚に、息が乱れる。
 見られ、視線に侵される快楽が一層、屏風のぞきの被虐を煽る。  

「あ…っや…も…っ」

 泣き濡れた視線で、縋りつく。
 追い詰められ、熱に焦がされ、口にするのは切ない本心。

「ぁ…っきち…さ…だけだか、ら…ぁっにき…」

 仁吉だけだと呼び縋る声は、ひどく掠れて。
 満足げに、薄く笑みを刷いた仁吉に、指を引き抜かれる。
 きゅうと、物足りなげに締め付けてしまい、また感じてしまう。

「ひぁ…―――っ」

 けれど、それに羞恥を感じる間もなく、突き入れられ、揺すられて。
 ようやっと与えられた、待ち望んだ刺激に、屏風のぞきの唇から、溢れるのは嬌声。
 乱され、突き上げられて、屏風のぞきの意識は快楽へと、飲まれていった―。