身体を這う舌に、指に、熱が昂ぶる。
柔く、脇腹を指先で辿られ、きゅっと、敷き布を掴む手指に、力が篭った。
軽く、瞼に口付けを落とされ、促されるように、きつく閉じていたままの目を開けば、ひどく優しい微笑と、視線がぶつかる。
「好き」
零れるように囁かれた言葉に、背筋が震えた。
この上なく、優しい仕草で髪を梳いてくる手が、ひどく心地良く、愛おしい。
「あたしも…好、き。…一太郎が、好きだ、よ」
震える唇で、音にすれば、気恥ずかしさが混じるけれど。
それでも、胸の裡から零れたそれは、一太郎の瞳に、ひどく嬉しそうな、笑みを浮かべさせた。
合わせた視線のまま、互いに求めるように、重ねた唇。
舌を絡めれば、濡れた粘膜が触れ合う感触が、生々しい。
「は…ぁ…っ」
そっと、一太郎の指先が、下肢へと伸びる。
伺う様な視線を投げかけてくるから、小さく頷いて、軽く、足を開く。
羞恥に、目元が熱い。
熱を持ち始めている自身に、ゆるく、指を這わされ、吐息が震えた。
そのまま、耳から頬、首筋にも唇を這わされ、息を詰める。
鈴口を、親指の腹で拡げる様に擦られ、敏感な箇所への直接的な刺激に、肌が粟立った。
「嫌、…ぁ…」
少しきつめの指の輪で扱き上げられ、求める様に、腰が浮く。
快楽に、涙が滲む。
無音の部屋に響き始めた、粘着質な水音が、どうしようもなく羞恥を煽るから。
咄嗟に、一太郎の細い腕を掴めば、宥めるように口付けられた。
目尻に溜まっていた涙を吸われ、何度も細かく、息を吐く。
「大丈夫だから。…ね?」
落とされる囁きに、うっすらと目を開ければ、柔い微笑とぶつかって、思わず、その白い頬に、震える指先を伸ばす。
唇をなぞるように、指先で辿れば、一太郎の手に捕らえられ、舌を這わされ、ぞわり、背筋を快楽が走る。
指の腹から、辿る様に、丁寧に舐め上げられ、舌先で指の股を擽られ、反射的に手を引こうとすれば、軽く、歯を立てられた。
思わず、息を詰めれば、一太郎の唇が、満足げな笑みを浮かべて、ようやっと、離される。
一太郎の指先に、再び、腿の付け根、触れるか触れないかの所をなぞられ、その焦らすような動きに、求めるように、腰が浮く。
「ぁ…ぃ、ちたろ…っ」
掴み、引き寄せた敷き布が、大きな、皺を作る。
応える様に、軽く触れるだけの口付けを一つ、落とされて。
再び、自身に与えられた直接的な刺激に、もう、抗うことはなかった。
「いい…?」
囁き、耳に掛かる掠れた吐息の熱さに、身体が震える。
きつくきつく、目を閉じたまま。
こくんと小さく頷けば、つぷり、後孔に指を差し込まれ、息を詰める。
その慣れぬ異物感に、いつも、身を強張らせてしまうけれど。
「あぅ…ん…っ」
何度も内壁を弄られ、敏感な箇所を擦り上げられ、いつも、いつの間にか、吐息に甘さが、滲み始める。
快楽に、下肢が疼いた。
「は、ぁ…ぁ…」
一本、二本と、増やされる指に、増すのは快楽。
嬌羞に上気した肌を、汗が伝う。
絶え間なく与えられる刺激に、立てた膝頭が震えた。
「い、ゃ…だ…嫌…」
快楽に、意識が飲まれそうになる度、吐き出すのは否定の言葉。
無意識に首を左右に打ち振れば、宥めるように降ってくる口付けが、心地良い。
「ぁ…っ?」
唐突に、指を引き抜かれ、思わず、強請るように視線を投げてしまい、羞恥に耳が熱くなる。
そんな様に、小さく、一太郎が苦笑を漏らすから。
一層、気恥ずかしくて、逃れるように、顔を背ける。
失った刺激に、ひくり、後孔が疼いた。
「兄さん」
呼ばれ、おずおずと視線をあわせれば、熱に濡れた瞳に捕らえられ、息を詰める。
促すように、内腿に指を這わされ、躊躇いがちにも、一層大きく、自ら、足を開く。
これ以上なく、羞恥心を煽るそれに、どうしても、きつく目を閉じてしまう。
開いた内腿が、小刻みに震えるのが、自分でも分かった。
「恥ずかしい?」
不意の問いかけに、目を開ければ、涙に滲んだ視界の向こう、微かに苦笑する一太郎がいて。
今更、否定しても、どうしようもないから。
こくりと、微かに、頷いてみせる。
それでも。
「兄さん?」
きゅうと、一太郎の細く白い首筋に縋りついて。
その耳元、小さな小さな声で、囁き落とす。
「ぃ、いい、から…一太郎、が欲しい、から…」
重ねた肌から流れ込む体温が、どうしようもなく愛おしいから。
だから、もっと深く、もっとたくさん、一太郎を感じたいと、想う。
誰よりも。
「もっ、と…近くに…」
気恥ずかしさに、声が震える。
何度も細かく、息を吐きながら。
最後の一言を、吐き出す。
「きて…」
一太郎が小さく、息を呑む気配が、空気を震わす。
途端、一息に突き入れられ、松之助の唇から、悲痛な声が、上がった。
「は…っく…ぅ…んっ」
じわり、反らせた背中に、汗が滲む。
苦痛と衝撃を、眉根を寄せて、やり過ごす。
「ぁ…痛ぅ…っ」
いつもなら必ず、松之助が馴染むまで、待ってくれるのに。
その間もなく、律動を開始され、一太郎の首筋に立てそうになった爪を、咄嗟に握り込む。
苦痛に、吐息が苦しい。
ぼろり、零れた生理的な涙が、頬を濡らした。
「ごめん、ね…」
荒い吐息の下、舌先で零れる涙を掬われる。
応えることすらできなかったけれど。
それでも、涙に滲んだ視界の向こう、快楽に眉根を寄せる一太郎が、ただ、愛おしい。
「あ…あぁ…」
ただ、苦しく辛い吐息は、いつしか、甘い色が帯び始め。
苦痛に噛み締められた唇から、堪えきれないような艶めいた吐息が、零れ落ちる。
首筋に絡めていた腕を、解いて。
敷き布の上、探るように一太郎の手を、掴めば、きゅっと、絡め返してくれた手指。
互いに見詰め合えば、自然、愛しさに笑みが零れた。
「ぅあ…ぁ…っ」
自身に手指を絡まされ、扱きあげられて。
一層強い快楽に、松之助の意識が、追い詰められる。
「ぃちたろ…一太郎…っ」
きつく、きつく。
求める様に、縋る様に名を呼べば、応える様に松之助の手指に、一太郎のそれが、絡む。
ぎゅっと、繋いだ手に、互いに力が、篭る。
限界が、近いのが分かった。
「兄、さ…」
熱に掠れた声が、囁いたと同時、白濁とした熱が、松之助の裡に、放たれる。
ほとんど、つられるように。
松之助も、一太郎の手の内に、己の熱を、解き放っていた。
「は、ぁ…」
きつい快楽の余韻に、己の上に倒れこんでくる一太郎を抱きとめて。
荒い吐息を落ち着ける様に、何度も忙しなく、胸を上下させる。
「ごめんね…」
ひどく申し訳なさそうな声に、目を開ければ、一太郎が情けなさそうに眉尻を下げているから。
思わず、笑ってしまう。
「大丈夫…だよ…」
確かに、常より無理を強いられた身体は辛かったけれど。
乱れた髪を、梳いてくれる手が、ひどく心地良かったから。
繋いだままの手から、流れ込んでくる、同じになった体温が、ひどく嬉しかったから。
そんなことはもう、どうでも良かった。
「けど…」
それでもまだ、何か言おうとする一太郎の唇を、己のそれを重ねることで、塞ぐ。
「………っ」
不意の、己からのそれに、驚いた様に目を見開く一太郎に、照れたように笑いながら、松之助は繋いだままの手を、引いた。
「本当に大丈夫だから。…だから」
もう一度、一太郎の瞼に、口付けを落とす。
「もう寝よう?」
微笑を向ければ、一太郎もようやっと、微笑ってくれた。
いつのまにか、ずれてしまった布団を、二人、照れ笑いで引き寄せて。
繋いだ手はそのままに、交わすのは、軽く、触れるだけの口付け。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
どちらともなく、零れた笑みは、同じ色。
そっと、両の瞼を閉じて。
ふたりはゆっくりと、同じ色の夢へと、落ちていった。