何度目が分からない寝返りに、ベッドが軋む。
  共有するケットが、微かにずれる。
  枕元の目覚まし時計の、闇に浮かぶ文字盤を、見上げているのが、シーツを滑る髪の音で分かった。

「眠れないのか?」

  隣の暗闇に問い掛ければ、一瞬、シゲが固まったのが気配で分かる。
  一拍後、零れた苦笑が、闇を揺らした。

「ごめんやで。…雨が、な」
「あぁ…」

  起こされたのではなく、起きていたのだから、謝る必要なんて無いのに、とぼんやりと思う。
  窓の外の雨音は、弱まる気配なんかなくて。
  まるで耳を塞ごうとするようなそれは、確かに煩い。
  
「なぁタツボン」
「うん?」

  呼ばれて、向き直る。
  同時に軋んだベッドで、お互い向き合っているのが、分かった。
 
「何?」

  そっと、促すように。
  シゲの頬に手を伸ばす。
  暗闇に視界を塞がれても。
  それはまっすぐ、シゲに届く。
  シゲの手が、水野の手に、重なる。
  甘えた仕草に見せかけて、まるで確かめるように、頬を擦り寄せてくるシゲ。

「好き。って言うて」
 
  甘えた声に見せかけて。
  その声は微かに、震えていた。
 だけど。
 この馬鹿はきっと、自分には気づかれてないと思っているだろうから。
 水野は業と、気づかぬふりを、してやってみる。
 
「言うて。ちゃんと、言うてや」

 甘えた、強請るような声とは裏腹に。
  重ねてられた手が、逃さないと言うように、水野の手を握る。
  それはまるで、すがりついているようだった。

「………好き」

  握られた手を、振り解いて。
  自分から、シゲの首筋に、腕を絡める。
  傷んだ金髪を、そっと、抱き込めば、背に回された腕にきつくきつく、抱き締められ、思わず、息を詰めた。

「もっかい…」

  強請る声に、すがりついてくる腕に、応えるように。
  雨音を払うように。
 
「好き。…シゲが、好き」

  繰り返し、伝えてやるのは自分の真実。
 どれぐらい、そうしていただろう。

「もっかい…って言うたら怒る?」

  いつの間にか、背に回された手は、水野の髪を梳いていた。
  微かに、笑いを含んだ声が、ひどく嬉しそうで。
  釣られて、笑ってしまう。
 ぎゅっと、首筋を引き寄せて。
 自分から、重ねたのは唇。

「これでもまだ足りないわけ?」

 驚いた様に固まる気配に、口角が釣り上がる。

「……敵わんわぁ…」

  呟かれた言葉に、水野は声を立てて笑った。
  シゲの中にはもう、雨音はないだろうから―。