先に、気付くのはいつもホームズ。
 その一拍後に、決まって鳴らされるのは、インターホンのチャイム。

「はい」
「あーけーてー」

 間延びした声に、態と不機嫌な顔を装って、玄関のドアを開ける。
 途端、向けられる屈託の無い笑顔に、つられ、口元に浮かぶ微笑。
 膝に、ぱたぱたと振られるホームズの尻尾が、当たる。
 
「お邪魔しますぅ」
「はいはい」

 早く入れと、促しながら、ふと、気付く。
 それはホームズも気付いたようで。
 ふんと、少し不満げに鼻を鳴らして、離れていってしまった。
 
「雨、降ってたか?」

 問いかければ、シゲは一瞬、きょとんとした表情を見せ。
 
「あぁ。まだ小雨やけどな。よう分かったな」

 さっき降りだした所だと付け加えるのに、「ふぅん」と、気の無い返事を返して。
 
―なんで分かったかなんて…―
 
 癪に障るから、絶対に教えてはやらないけれど。

「あれ?ホームズは?」
「さぁ?」

 ひどくさりげない仕草で、寄りかかってくる体温が心地良い。
 絶対に教えてはやらないけれど。
 雨の日は一層強く、シゲの煙草の匂いが香る。
 ホームズはそれを嫌うみたいだけれど。
 それは一層、シゲの存在を感じられる気がして。
 水野は決して、嫌いでは無かった。

―絶対教えてなんかやらないけど…―

 傍らの体温に寄りかかる水野の口元には、少し嬉しそうな微笑が、浮かべられていた―。