生きているってことはね。
出遭えるってことはね。
これほど有り難いことはないんだよ。
「ねぇ…松之助兄さん。」
「はい、何でしょう?」
「仏教では、この世で生きることは修行だというよね。」
「え、ええ…」
あまりに唐突な言葉に首を傾げた松之助の肩口を、
行灯の光が波形を残して移ろっていく。
たとえば、この身ある今生が極楽ではなくて、
四苦八苦、生・老・病・死があろうとも。
同じ時に生きていて、
そして今そばに貴方が居て、
触れようと思えばこうして触れられるこの幸福。
「生まれてきてくれてありがとう。」
だから、あたしは幸せだと、
一人ではない今を感謝して
縁側の上、松之助の手にそっと掌を重ねる。
「わ、若だんな?」
掌を拾われた松之助は驚き半分、照れくささ半分、
首を竦めて俯きがちな項が赤い。
眼差しすら行き場をなくし、揺れる瞳を下から覗き込んで、
一太郎は柔らかく相好を崩した。
「そんな風に呼ばないでおくれよ…なんだか、とても遠く思えるから。」
「で、でも…」
松之助にとっては眩しい笑顔、
彷徨う眼差しはとうとう行き場をなくして俯いてしまう。
一太郎は片手を伏せた頬に添えて、
そっと優しい手つきで顔を上げさせる。
力などなくても、自分の手が他を許さない力を持っていることを知っていて、
「ねぇ兄さん。」
間近で覗き込んだ兄の顔は、
切ないほどに歪んでいて、
嗚呼、こんな顔をするほどに慕われているのかと知ると、
今の自分の顔は締まりなく緩んでいるんじゃないかと思う。
促された言葉を口にするほんのわずかな後ろめたさと、
それ以上の羞恥心に戸惑いを隠せない表情が、
一太郎の胸にじわりと焔を灯すのだった。
そうして、何を紡ぐのか
水面で喘ぐ金魚のように唇を開閉させた松之助は、
眉尻を下げた思いつめた表情でこう告げるのだ。
「あ、あたしも…一太郎と一緒に居れて、幸せです。」
この内省する人は――
控え目に見せて、
ときにこうも大胆に心を満たしてくれるから。
心の蔵どころか、
魂の苧(糸)すらも包まれて、
奪われてしまうのだ。
「これからもずっと、側に居ておくれ。」
そう告げた願いに、
応えるかのように、松之助が重ねた掌を握り返した。
了
―――――――――――
い ち ま つ ! ! !
御年賀フリーということで颯爽と掻っ攫ってきました我ながら快挙です!!
もう戸惑い恥らう姿が兄さんらしすぎて萌え禿げた。
兄さんは時々さらっと大胆発言をして若だんなをどぎまぎさせればいいと思います^^
若だんなが唯一敵わない人であればいい^^
素敵な御年賀をありがとう御座いました!!!!