桶屋長夜講
緑の草むらには虫の声が満ちている。
鈴を転がす音色、石にしたたる水の一滴に似た玲瓏な色彩。
一つの季節の終わりと始まりを奏でていた。
背中を預けた木肌はゴツゴツと隆起していて、踝を擽る葉がくすぐったいのだけど、
それを口にするのはどうしてか躊躇われて下唇を噛んでいた。
意識を塗りつぶすのは静かな鈴虫の声ではなく、目の前の微笑みのみ。
普段見るのとは異なる。
きっと誰も知らない顔が月明かりに照らされてこちらを見つめていた。
この時にだけ見(まみ)えることができる酷く優しい眼差し、
この眼差しに射抜かれることが嫌いではない。
むしろ、その瞳で見つめられると陥落してしまうのだ。
木肌に腕を縫い付ける細い指が傷ひとつなく、働く者とは思えない。
その癖に力強い掌に指を絡めて自ら唇に噛みついた。
合わせた大妖の唇はひどく熱かった。
−−−−−遡ること一刻。
その日は長崎屋の離れで浴びるように酒を呑んでいた。
宴席の中央にいる若旦那が朗らかなのは首を突っ込んだ事件がまた一件落着したからで、
その主人の計らいで鳴家やお決まりの顔ぶれを招いての労いだった。
今年の麹は出来がいいのか、舌がとろけるように酒が旨くて、
確かに仁吉さんに何か言った所までは覚えているけれど、記憶の瑣末な部分が曖昧だ。
しだれかかるように肩口に頭を預けてきた。
常ならば、大妖よりも人に近い神経を持った付喪神はこんなあからさまな態度をとることはない。珍しい。
(意識しているのか、していないのか。
あたし以外には無防備に頭でも足でも胸でも明け渡す癖に、何故かあたしにだけ憚っている。
獺やおしろや狐などにはすぐに触れ合う所は妙に苛つくが…)
だからあたしも直ぐには跳ね返すこともせず、
肩を上げたのみで屏風のぞきの言葉の先を促してやった。
「仁吉さん、もう一杯だけおくれよ…。」
殻のお銚子を揺らし、人差し指をたてて強請る様はまさに酔っ払い。
火照った息が零れる唇は酒気に濡れて、
奥で垣間見える紅い舌が扇情的だ。
なるべく視界に入れないよう素知らぬふりで首を振る。
「お前にやる酒なんてないよ。」
「つれないことを言わないどくれよ仁吉さん。もう一杯だけで良いんだ。」
言いつつも酩酊した体を持て余しているのか、
なれなれしくも肩に腕を回してきた。
さらにしだれかかる身体、密着すれば体温まで露わに伝わる。
肩に押し付ける胸元が乱れて、
市松模様の間、紫紺の襦袢の奥に白い肌がさえざえと栄えた。
目を凝らさないと分からないほど仄かに色味をおびた肌は、
水を吸い上げた陶器の滑らかさをもっている。
肩に回した指先が覚束ない仕草で着物を掴み、屏風のぞきの息が右耳に酷く近い。
これが無自覚になせる妖怪の気がしれない。
頭に血の気が昇って手が震えそうになるのを拳を握りしめて抑える。
平然を装って、皺になるだろう放せと言い放つ前に、耳元で酒気をはらんで湿った声が響いた。
「何でもするからさぁ、仁吉さん……御願いだよ。」
聞いた途端に糸が切れるような音を聞いた。
俗に人のいう所の堪忍袋が切れた音かもしれない。
ふつふつと沸き上がる妖怪の血をこれはもう、抑える必要も無いなと判じて、
目の前に差し出されたお猪口にわずかに一杯、だが波々と酒を注いでやった。
日本酒の芳香がふわりと広がり包む、こちらも酒を呑んでいるような錯覚。
屏風のぞきが最後の一滴まで惜しんで舐める。
目の前で白い喉元が上下する様を最後までまじまじと眺めていた。
「なぁ…仁吉さん、どこに行くんだい?」
危なげな足取りを手を引いて支えてやる。
あたしが宴席を片付ける間、この付喪神は床でねこけていたのだから今は寝起きだ。
それも深い眠りに入る間際で起こされ、しこたま呑んだ酒も回って
夜道を起きながらにして夢現で歩いている。
手を引くのは煩わしいが、今は好都合だった。
もうだいぶ長崎屋から離れたはずだ。
妖怪にしか分からない道を歩んで、雑木林の外れにたち紅白の着物を木に縫い付けた。
「あたしは酒を呑んでないから、酒漬けの屏風でも喰らってやろうと思ってね。」
同時に耳孔に教えてやった囁きに、驚愕と畏れの混じった色の黒い眸が見開いた。
向かい合わせになり、付喪神の両腕は寄り掛かる背後の樹を掴み。
ともすれば倒れ伏しそうな体を必死に支えていた。
「っは、ぁ…や、めとくれ…」
屏風のぞきの痙攣する内腿を仁吉の掌がゆっくりと撫でると、
感じやすい体は屹立とした熱い中央からだらしなく蜜を零して応えた。
堪らない快感に屏風のぞきの息が乱れ、
その熱を散らすために力無く首を振った。
手代の前で乱れ髪が揺れる。
「に、吉さ…、離しとくれ…逃げないか、ら…」
しきりに頭を振る屏風のぞきの噛みしめた奥歯が震えている。
カチカチと歯の当たる硬質な音が響き、
眉間に深くしわを刻み歪んだ表情で目前の男を睨みつけた。
「ほうお前を離してやって、あたしに何の得があるのかい?」
「後生、だから…ほんの少しで良いから。ひぁ…」
すすり泣く声はいつもの甘やかさに、別の色も潜ませている。
屏風のぞきの異変を見透かした仁吉は、
追い詰めるために、
腿を行き来していた指先で双嚢を転がしながら首を傾げる。
白い肢体が腕の中で切なげに震えてそそり立つ自身が付喪神の腹を打った。
それは確かに隠しようのない快感を示していて、
「いっやだ。い、ぁ…あ」
堪らない愉悦が全身に電流のように広がり、鼻から甘えた声がぬける。
だがいまの屏風のぞきの体にはそれ以外の欲求が満ちていて、
快楽に流されるどころではなかった。
必死の体で、仁吉の腕に縋る。
今は流されるわけにはいかない。
酒が回り、体に満ちた水分が逃げ場をもとめているのだから。
腕を掴んだ掌が細かく痙攣し、
見上げる黒い眸の奥は、稲妻でも宿すように切羽詰まっていて、
仁吉は眩しさに片目を眇めた。
「なんで離してやらなければならないんだい?」
その顔すらも仁吉は楽しんで、屏風のぞき自身を刺激する。
訴えている言葉の意味は半分理解している。
察した上で追い詰める手を緩める気は、毛頭起こらなかった。
透明な雫を塗り広げるように鈴口を指の腹でこすってやると、
堪えきれない嬌声と共に腹筋が緊張で波打つ。
入り口をくじるように何度も擦り爪先を噛ませると、
たつのも覚束ない膝ががくがくと震えた。
いつも鮮やかな市松模様が穢されていく。
その中心で悶える肢体は、ひどく艶やかな徒花のようだった。
全てが、今は仁吉の意のままだった。
「あっあ、ぁ…あ…」
屏風のぞきは堪えていた。
針の莚の上の一筋の糸を歩むように全身を緊張させ、
別の欲と快楽の波際で堪えていた。
もう酒を飲み始めてから一度も席を立っていない。
晒された下肢が冷えて余計に欲を促した。
嗚呼、もう無理だ。
早く、今はとにかく早く、雪隠に行きたい。
迷った屏風のぞきがひたりと顔を上げて静かに眼前の顔を見る。
仁吉も口開くのを待った。
しかしそれを言葉にするのは憚られた。
とてもじゃないが口にすることを許せない。
男女の交歓を覗くことを好む自身が、
好きなように、しかも男に体を嬲られているだけでもすり減る矜持を、
自らかなぐりすてるも同然だった。
唇を頑なに噛み締めた屏風のぞきが左右に頭を振るばかりの姿を見て、呆れたように片眉を吊り上げる。
「つくづく仕方ない奴だね。」
ぞっとするような笑みを唇にひいて言い放つと、
屏風のぞきの胸倉を掴んで乱暴に押した。
支えを失って叢の上に情けなく尻もちをつく、
その目の前に立ちはだかって、袂を開いた。
「ぁ、……」
嬲る掌から解放されて、ほっと息をつく間もなく。
既に屹立とした雄をみせられて、立ち上る熱気に目を逸らした。
直視できずに目線を泳がせていると片手を添えた雄で頬を叩かれる。
むっとする覚えのある香りに屏風のぞきの神経が甘く痺れた。
「頼みごとがあるなら、やり方があるだろう。」
有無を言わせぬ声だった。
頭上からの最後通告に、
ゆるゆると唇を開いた屏風のぞきが熱を招き入れる。
早く、一刻も早く自由の許しを得るために迷っている暇は無かった。
先端の窪みを舌先で擽り、窄めた唇で傘までを含んではひいてを繰り返す。
咽喉奥まで含んで包みこむと、教えられた通りに奥を使って吸い上げた。
男を追い立てる行為は、見たことこそあるけれど、
己が仕掛けたことがあるのはこの残酷な目をした相手だけで、
この時だけが屏風のぞきが手代を追い立てることが出来たので、
両手も添えて、熱心に奉仕する。
淫猥な水音が近く響いて、両耳を塞ぎたい衝動に駆られる。
有り余る羞恥を感じるほどに、
何故だか体が熱くて屏風のぞきは持て余した熱に身を捩った。
女を抱くことには長けていた身体も、抱かれるのは初めてだったようで
初めから仕込んできた甲斐があり、屏風のぞきは筋が良い。
だが、そんな思いは知れないでよいものというように、
仁吉は詰めていた息をそっと吐き出すと髪を梳いていた手で力任せに屏風のぞきの頭を引いた。
「んっ。ぅ…ぐう…」
くぐもった声をあげて屏風のぞきが顔をあげる。
水に漱がれて光る黒い眸に己しか映っていないことを確かめて大妖は頷いた。
それでいい。
「随分と美味そうだね。」
揶揄をされた屏風のぞきの肩が屈辱に戦慄く。
だが次の瞬間ひきちぎられるような痛みにすぐに意識が奪われた。
「ぐっ――ぅうん…」
仁吉が容赦なく屏風のぞき自身を踏みつぶしたのだ。
腰を中心に激しい鈍痛が走り、生理的な涙がじんわりと溢れてきた。
「うっ…ぅ―。」
やめてくれと訴えたくて退こうとした頭はがっちりと掴まれていて、
前からは雄で貫かれていて逃げ場がない。情けない鼻声をあげることしか出来なかった。
踏みつける足裏が上下に擦るように動けば思考が奪われていく。
嗚呼、痛いはずなのに。
鈍痛はやがて得体のしれない感覚となって駆け巡る。
ささくれだった草履に自らの先走りが馴染んで痛みだけではない甘痒が走る。
こんなにしてよっぽどな好きものだねえと、嘲る声がひとつまたひとつと屏風のぞきの矜持を奪い。
言われて目にした自分自身が先ほど濡れそぼり立つ角度を鋭くしていた事実に、矜持はずたずたに引き裂かれていった。
逃がれようと必死に身をねじっても、
ゆらゆらと腰を揺らすことしか出来ない。
まるで強請っているような動きのせいで、
草履の裏のささくれ立った繊維が先端の敏感な場所を擦り、屏風のぞきはすすり泣いた。
嘘だ。気持ち良いなど嘘だ。
睾丸を踵の裏で潰される痛みはやがて快楽へとすり替えられて、
身体が熱く燃える。意識すらも白くなりかけて、
全身を行き渡る甘い痺れと熱の奔流に、それ以上に尿意が押し迫っていて
目を白黒させ逃れようと必死の思いで腰をずらして後ろに逃れた瞬間に、
爪先を使って仁吉が器用に最も敏感な場所を抉った。
草履と足袋に覆われた爪が別々の刺激となって、先走りで布に張り付いた皮膚が引き攣れて熱い。
体中が痺れるように熱くて、たまらない。
両膝をつ明な露が滴り、
黒い眸は焦点を失ってそのまま硝子玉のように零れ落ちそうなほど見開かれていた。
その様じっと見下ろしていた仁吉は唇を歪めて笑うと、
それ以上ないほどに容赦なく足の裏に体重をかけてやった。
限界まで捻じ曲げられた自身から、湧き上がる熱と痛み。
快楽と鈍痛が倒錯的な悦びとなって、絶頂へと昇りつめる快感に屏風のぞきの意識が真っ白に変わる時、
それはおきた。
「ん、ンぅ−−−−!!」
絶頂に似た快感。
意識が白く焼き切れる。
屏風のぞきの下肢がびくびくとひと際はでに痙攣すると、緊張の走った内腿が戦慄く。
解放される悦びと、性欲にしては長すぎる。
長く長く尾を引くような、悦び。
そして、溢れる水。
「ん、ぅ…う…。」
「おっと……、」
ずっと堪えてきたものが、壊れた。
踏みつぶされて通り道を狭まれたために、
不自然に曲がった先から全てを出し切るまで、それは細く長く続いた。
一層静かに感じられる世界で自らの水音ばかりが響いて、
いたたまれなさと最後の希望すら失った屏風のぞきの双眸からは後から後からぽろぽろと涙があふれる。
堪えきれなかった。
そして、それ以上に感じてしまった倒錯的な快感に自らの身体が信じられなくなる。
切なげに震える睫毛は、仁吉を直視することができずに眸を隠した。
目の前の哀れな妖が全てを出し終えるまで、
自らの草履が汚れるのも厭わず、最後まで仁吉は見下ろしていた。
陥落した眸に一層整えた笑みを与えてやる。
生意気で時にそれは周囲を魅了するほどの無鉄砲さ、
そして勝気さを、心底この手で挫いてやらなければならないのだから。
「酷い格好だね。まさか、漏らして感じるなんて…お前、よっぽどな好きものだね。」
一度伏せられた眸が愕然として見開かれた。
言葉を発しようとした舌が咥内の仁吉自身を撫でまわす。
絶妙な刺激となってまた一回り存在を大きくなった雄に噎せ返る屏風のぞきの股を指さして
大妖はそれは美しいほほ笑みで笑いかけた。
見下ろした付喪神は、涙に濡れた眸で仁吉を見上げる。
痛めつけられ、一つの恥をさらしつくしたにも関わらず仁吉の足裏で、
自身が、また存在を主張していたからだ。
嘘だ。感じているはずかないと
不自由な首をかすかに横にねじり必死に訴える眼に走る怯え。
そして先ほどよりも敏感に震える身体を見て、
仁吉は満足げに咥内を犯していた楔を抜いた。
「っや、ぁ…あ、ぁあ…」
再び立たされて樹に両手をついて寄り掛かるようにして悶える。
背中ごしに密着した仁吉の身体が触れて意外な体温の高さに、気づく余裕はすでにない。
背後から最も敏感な鈴口を容赦なくなぶられ、煮え立つような熱が腰から全身まで行き渡る。
ひくひくと震えた先端からはふたたび、透明な先走りが溢れていた。
気持ちが良いのか、先ほどまで踏みつけられていた下肢から痛みがわき上がるのか。
もうどちらかはわからない。
綯い交ぜになった感覚がさらなる快感となって屏風のぞきの身体の奥まで届く。
「気持ちがよさそうじゃないか…」
いつもよりも、と耳元で低く囁き
屏風のぞきの眼前で、先端から溢れた粘液を指の間で音をさせて弄ぶと、
月光で青白くてらしだされた頬から耳朶までが鮮やかな烏瓜の色に染まる。
「やっ、ひ…ぃ、い。」
首を仕切りに横に振り寄り、縋るように樹肌に爪を立て、
下肢から震えをやり過ごしていた。
体が熱くて、煮えたぎる暑さにどうにかなりそうだ。
「あっ、ちょ…いと、いやぁ…待ってくれ…」
形の良い指先が尻を掴み、いつもは仕事をしている冷静な手に双丘押し広げられて、
大妖の目に全てが露わになった。
眩暈がするような羞恥心に涙が溢れそうになり目頭が熱くなる。
嗚呼、もう限界ですり減って乾いた神経に、
与えられる毒のような悦びばかりが水のように沁みていく。
「仁、吉さん……堪忍しっ、て…」
「珍しいじゃないか、」
お前が素直に強請るなんて。と揶揄されて、解釈する意味が違うと首を振る。
そもそも言葉を選び間違えたことに気がついたが、もう遅かった。
裏庭に指先が捻じ込まれて、続く言葉は啼き声にしかならない。
「ぁあああっあ!」
蕾をほぐすため滴を丹念にすり込ませる。
内壁をまきこんで押し入った指先に、何度味わっても慣れない不快感が駆け上る。
ぶるりと震えた体が硬直して仰け反り、
自ら尻を突き出すあられもない格好になった。
「息を、吐け……力を抜くんだ。」
耳元で届いた大妖の声に熱がこもっていて仁吉さんも興奮しているのだと思うと、
得もいえない悦びが頭の中身を満たしたけれど、
かすかに残る理性が、逃げなければと訴える。
「むっり、…だ…ぁあっ」
そうかと咽喉の奥で哂う声がどこか甘く聞こえたが
酔い痴れる間など無かった。
もう一本増えた指が柔壁のある一点を押し上げたからだ。
男としての性感の束を内から直接に叩かれて、もう声をあげることもかならない。
腰から広がる脈打つ快感はすでに限界を訴えていて
それを知られたくなくて、堪えるために全身を震わせた。
けれど、それも限界で―――
「あっ、ぁ…やめ……そこ、厭だぁ――っ」
身体中が快楽をかき集めて、白くなる意識の向こうで頂点を迎えようとした処で指が引き抜かれる。
絶頂の寸前で投げ出された身体、もてあました熱は猛り狂っているけれど、
荒い呼吸の向こう水気に滲んだ視界でふと前を見る。
宵闇に純潔の白い真ん丸な月が浮かんでいた。
途端に湧き上がる背徳感と羞恥心。
後ろで動く大妖の気配がするけれど、
それよりも逃げなければと思った。
今ならば逃げられるというかすかな希望が頭を掠めて、
考えるよりも早く、大妖を前にした本能的な怯えで足が動いていた。
理性的な理由などはなく、ただの情動で動く。
戦慄く膝を叱咤して一歩・二歩よろめいたまでは良かった。
縺れた足が、ほんの僅かに前のめりに身体が倒れた隙に、
屏風のぞきの頭に激痛が走る。
「――――っいつぅ!!」
仁吉の掌が髪を容赦なく引いたからだ。
糸が引き千切れる音をさせて、数本の髪が指の間に残る。
地面に倒れた屏風のぞきの背後から、大地を踏みしめてゆっくりと近づいてくる足音がした。
「まだ、それだけの気があるなら余計に愉しめるね。」
振り返りより縋るまなざしが驚くほど扇情的で眩暈を覚える。
加虐的にふるまえばふるまうほど、その眸に輝きが増すのをしっている。
そしてそれほどに、悦びに色めく身体が美しいことも。
「あっぁ、やめ…に、きちさん。許して…」
「何でもするからと言ったのは、お前のほうだろう。なぁ…」
屏風のぞき、としたたるように甘い声に名を呼ばれ痺れるような戦慄が背中を走った。
裏庭身を限界まで拡げられ、痛みに涙が果てた瞳が揺れる。
夜闇を切り取ったように月だけがぽかりと浮かぶ夜。
人知れぬ雑木林の中で白い肢体が踊る。
草村の匂いたつ緑、その中にひかれた市松模様が鮮やかだ。
甲高くのぼりかける声を抑えて、
身体の芯まで支配され、
自らの全てが喰らいつくされていくのを屏風のぞきが知ったのと、
容赦なく熱い楔に身を貫かれたのはほぼ同じ瞬間だった。
叢の上を汚れた爪先で掻き毟りながら月夜に躍る四肢。
淫らにほころんだ蕾を貫いていく質量と熱さに歓喜して、屏風のぞきは一際大きな声で鳴いて白濁を吐き出した。
「だめ、っ、ぁあ−−−−!!」
緊張した双丘が戦慄いて、昇り詰めた中が雄を締め付ける。
それはまさに、屏風のぞきが歓喜に身を任せた瞬間だった。
泣き濡れた顔の付喪神が、喪失した意識を取り戻すとそこは土蔵の中だった。
まずは見慣れた大きな黒い梁が視界に入り、瞬きをする間に白い手拭が視界に入る。
「気がついたかい。」
先ほどみたのは夢だったのだろうかと朧気な頭で思い。
仁吉さん、と紡いだはずの声が掠れ、咽喉に走った焼けるような痛みに現であったことをしる。
途端に走馬灯のように繰り返される映像に、身を切るような羞恥心を覚えて跳ね起きた。
「っぁ、あ"!」
下肢から走る鈍痛、なにより身体が鈍い。
起こしたはずの上半身が倒れかけてその身体を手拭を握る手が支えた。
「離っしとくれ……よしとくれ。」
男の矜持も切り崩されて、支える手すらも今は近寄りがたかった。
「なら、その格好のまま…帰るつもりかい。」
促す言葉に、記憶が煽られて下唇を噛みしめる。
二人の間に降りしきる沈黙の合間に、土蔵の外で鈴を揺らすような虫の声が折り重なる。
この格好のまま、絵姿に戻るなど屏風の付喪神としての矜持が許さず、
けれどその矜持すら何だったのかと落胆したい気持ちも加わる。
その思いを察してか、再び手拭で手代が身体を清め始めた。
手つきはあくまで淡々としているが――
見下ろすまなざしが意外なほどの慈愛に満ち満ちていることも、
屏風のぞきのしどけない姿を誰の目にも晒すつもりがないことも、
眸を合わせられずにいる付喪神にはあずかり知らぬことだった。
二人の合間にあるのはただ一つの満足感だけで、
屏風のぞきは無意識に扉がまた一つ開いた体をもてあまし、自らの身体が変化していく畏れと、それ以上の熱望に身を預けて、
扉を開いた大妖はそんな付喪神の変化に気付かず、目に映る全てに自らを映すことばかりに気取られている。
すでに互いが互いのことを満たし尽くしていて、静かな一時だった。
ひとしきり清めた白い背中に仁吉が噛みついて痕を残し、紅い華が咲く。
「っふ、ぁ……仁吉さん。」
情事の余韻で、火の点きやすい体が跳ねて甘い声があがる。
女のような声が信じられなくて付喪神は口を噤み。
甘く掠れた声に名前を呼ばれた手代は、赤い華が咲いた皮膚を吸い上げて応えた。
−−お前はどんな姿でも美しいよ。
と、思う言葉を告げるのは、
次の機会にとって置こうと、口付けた侭手代が笑った。
了
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素 晴 ら し す ぎ る ! ! ! ! !
1万HITフリリク企画をされるということで、遠慮知らずの変態のあてくしは、ほいほいと
「失禁ネタが見たいです!!」
と恥ずかしげも無く迷惑極まりないリクを投げつけてしまいました><
でも 後 悔 は し て い な い ! !
結局ね、愛なのですよこの二人は!!
極限状態の姿ですら愛しい。むしろそんな姿を晒させることで、己が手元に引き摺り下ろす。
嗚呼素敵!!素晴らしいですよね^^
随分な我侭を聞いてくださり、こんな素敵な作品を書いてくださって…!!
本当にありがとう御座います^^
最後になりましたが、みーこさま、一万HITおめでとう御座いました!!
これからも応援してます><
個人的に魔●で頬を叩かれるシーンが凄く好きです^^