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佐助は何度目か分からぬ、溜息を吐く。
重いそれは、また、誰にも届かずに部屋の空気に溶けて消えた。
「仁吉…」
呼びかけても布団の中で背けられた背中は頑なで、決してこちらを振り返らない。
余程、先のことがショックだったのだろう。
それは佐助にもよく分かる。が、そのままにもしておけない。
仁吉が負った傷は熱を伴っているのだ。
早く治さない事には、大事な若だんなの世話に支障が出る。
そう思い、佐助はもう一度、口を開いた。
「仁吉、兎に角早く傷を治さなけりゃぁ…」
「だから自分の世話ぐらい自分で出来ると言ってるだろうっ」
そう言って、晒しの巻かれた腕を、決して佐助に触らせない。
佐助の口からまた、溜息が漏れる。
仁吉が傷に触られるのを嫌がるのは、自尊心が傷つけられただけではない。
「お前ね…そんなに薬が染みるのが嫌なのかい?…自分で作った薬だろうに…」
これじゃあ若だんなに強く言えないよと、呆れると、更に仁吉の背中は強張り、
いっそう機嫌が悪くなったのが分かる。
子供じみた理由に、佐助は思わずこめかみを押さえてしまう。
けれどこんなことで怯んでいては、何年も相方はやってられない。
「早く良くならないと…若だんなにこれ以上迷惑を掛けるわけには行かないだろう?」
説き伏せるように言うと、ようやっと、仁吉の顔がこちらを向いた。
ゆっくりと上体を起こす仁吉に、ほっと安堵する。
薬の入った蛤の合わせに手を伸ばそうとした時、仁吉の白い手が肩に触れたと思った途端、
反転した視界。
突然、背中に走った衝撃に、寸の間、息が詰まる。
肺が鈍く痛んだ。
「…っ」
顔を顰め、軽く咽返っていると、不意に視界が翳る。
視線を上げると、にやりと口角を上げた仁吉の顔が合った。
「いきなり何すんだいっ早く退いとくれよ」
吠え付き、自分の上に圧し掛かっている仁吉を押し退けようと腕に力を入れた時、
視界の端に真っ白な晒しが目に入り、一瞬、躊躇する。
その隙を付く様にするりと着物の合わせから手を差し入れる仁吉。
ひんやりとしたその感触に、佐助は思わず身を竦めた。
その敏感な反応に、上からくすりと忍び笑いが降って来て、佐助の目元にさっと朱が走る。
「傷に触るだろうっ早く退けっ!」
怪我人相手に力尽くで押し退けるわけにもいかず、歯噛みする佐助の耳元に、そっと囁く。
「佐助…あたしらは妖だ。人とは作りがちょっと違うんだよ」
言いながら片手は器用に帯を解こうと動く。
気色ばむ佐助に、仁吉はその秀麗な顔に、長年の相方である佐助でさえ身が竦む様な壮絶な笑みを浮かべ、
囁いた。
「なに。こんな怪我、犬神のお前がちょっと精気を分けてくれたら直ぐに治るさ」
「…っく」
一瞬、息を詰まらせる。
爪先に力が入り、背が反る。
「…はな…せ…っ」
力の入らない手で頭を押しやろうとするのを、ふいと払いのける。
「何言ってんだい」
薄く笑って、仁吉は口に含んだそれを、強く吸い上げた。
「は…っ」
甘さを帯びた吐息と共に吐き出された精を飲み下して、仁吉はその形の良い唇を、意地悪く吊り上げ、
顔を上げる。
薄っすらと生理的な涙で潤んだ目をした佐助と目が合うと、きつく唇を噛み締め、顔を背けられる。
まるでさっきと逆じゃないかと、仁吉は内心で笑った。
先走りと己の唾液で濡れた指を後孔に滑らせると、佐助はひくりと、その身を震わせる。
まるで先の行為を期待しているような反応にまた、口角が上がる。
「力抜いて…」
「んぅ…」
軽い圧迫感と共に入ってきた指に、佐助はきつく眉根を寄せる。
異物感に慣れ始めた頃、再び甘さを帯びた吐息が佐助から漏れ始めた。
「…っひ…ぅ」
何度も何度も同じ所を攻め立てられ、佐助から余裕が消えていく。
上目でそれを確かめて、仁吉は不意に指を引き抜いた。
「んぁ…っ」
急に消えた刺激に、思わず物足りなさ気な声を上げてしまい、佐助の目元が羞恥心に染まる。
「今日は自分で入れてみな」
唐突に降って来たその言葉と共に、二人の位置が入れ替わる。
驚いたように自分を見下ろしてくる佐助に、仁吉は再び、口角を意地悪く吊り上げた。
「あたしは怪我人だからねぇ」
「な・・・っ」
言葉を詰まらせる佐助に、仁吉の目が楽しそうに笑う。
「これ以上若だんなに迷惑掛けるわけにはいかないだろう?だったら協力しとくれ」
先程佐助に言われた言葉をそっくりそのまま返すと潤んだ目に睨み付けられた。
「ほら・・・」
そう言って煽る様に後孔を指先でなぞると、佐助は小刻みに体を震わせる。
「・・・っ」
羞恥と屈辱で泣きそうになりながら、それでも突き上げてくる情欲には抗えず、
佐助は仁吉自身に手を添え、自ら腰を下ろしていく。
「・・・っく・・・ぅ」
ゆっくりと腰を沈めながら、何度も細かく息を吐く。
「・・・・・」
仁吉は不意にその引き締まり、くびれた腰に手を掛けると、一気に引き摺り下ろした。
「―っ?ぅあぁっ」
急な衝撃に、佐助の目が見開かれる。
生理的な涙が、その頬を伝う。
自分の体重がかかる分、いつもより深く貫かれ、苦しさに喘ぎ開いた唇からは、悲痛な声が漏れる。
「何すん・・・っだっ」
きつく睨み付けても仁吉は意にも介さない様子で、薄ら笑いを浮かべながら下から突き上げてきた。
「・・・っぅ」
いつもより強い刺激に、また、涙が零れ落ちる。
「後は自分で動きな」
非情な言葉に、思わず目を見開く。
それでも無言で晒しを指差されれば逆らえる術もなく、佐助はゆるゆると腰を使い始めた。
「は・・・っぁ」
時折思い出したかのように突き上げてくる仁吉に与えられる快楽に、何度も崩れ落ちそうになる。
羞恥で死にたい思いなのに、それを上回る快楽に、呑まれていくのが分かる。
「ん・・・ぅ」
徐々に追い上げられるにつれ、無意識の内に腰の動きが激しくなる。
「は・・・っぁ・・・」
二人の息が、荒くなる。
限界が近い。
「にきち・・・っ」
「・・・佐助」
視線が絡み、どちらともなく深く口付け合う。
「・・・っふ」
歯列を割り舌を絡ませあう。
お互いの体温が溶け合って、頭が空白になっていく。
一際激しい動きの後、佐助は二度目の精を吐いた。
同時に、仁吉も、佐助の中で吐精する。
ぐったりと自分の上に崩れ落ちてくる佐助を受け止めて、そっと布団に横たえながら自身を引き抜く。
どろりと溢れ出てきた白濁が、ひどく卑猥だった。
未だ息が整わぬ佐助に軽く口付けて、その腹に飛散した精を丁寧に舐めとると、
吐精したばかりで敏感な体は、ひくりと震えた。
思わずくすりと笑うと、佐助の頬にさっと朱が走る。
「これで明日もっと調子悪くなってたらぶん殴るからなっ」
目線も合わせず悪態をつく佐助に、仁吉の忍び笑いは止まらない。
佐助が本来自分の為に用意してくれた濡れた手ぬぐいで体を拭いてやりながら、仁吉はそっと囁く。
「大丈夫。もう二、三日お前さんが「協力」してくれたらよくなるよ」
その言葉に弾かれた様に振り向いた佐助は信じられないという目で仁吉を見る。
何かいいかけた唇は、やがて諦めたように溜息を一つついて、閉ざされた。
にこにこと性の悪い笑顔を貼り付けて自分を抱すくめてくる仁吉に、佐助は、目の前が暗くなるのを感じた―。
それから程なくして、佐助の涙の滲むような「協力」のお陰か、仁吉の晒しは無事取れた。
ただ、病み上がりの仁吉より、看病疲れか、佐助の方がやつれていて、一太郎はひどく心配した。
時折、思い出したように「二度と仁吉の看病なんかしてやるか」と一人呟くのを鳴家たちが目撃しては、
小首を傾げていたという―。