『おや・・・』
 仁吉はある事に気づいて、未だ日の光も差し込まぬ薄暗い寝屋の中、一人、器用に片眉を上げた。
 確かめるようにもう一度、同じことを繰り返してみる。
『やっぱり避けてるねぇ・・・』
 変化の解けた佐助の、犬の耳の根元を撫でながら、ふと、
 その柔らかそうな毛に包まれた先端が触りたくなって指を伸ばしたら、ふいっと器用に躱されてしまう。
 起きているのかと思って顔を覗き込めば、相変わらず安らかな寝息を立てている。
『・・・無意識のうちに出るぐらい、触られるのが嫌なのかねぇ・・・』
 そう思ったとき、仁吉の形の良い唇が、にやりと人の悪そうな笑みを作った―。


 朝方、変化が自分の意識の範疇外のところで解けていたのがよほど気に入らなかったらしい佐助は、
夜になっても不機嫌な顔面を下げていた。
 その姿に、思わず苦笑しながら仁吉はそっと佐助の襟首に手を伸ばすと、そのまま一気に引き倒す。
「・・・っわ」
 驚いたような悲鳴を上げ、佐助は仁吉の布団の上へ倒れこむ。
「なにするんだいっ」
 吠え付く佐助を気にも留めず、仁吉はその上へと圧し掛かる。
「ちょっ・・・昨日だってしただろうっ」
 抗議の声は右から左へ。
 聞き入れてもらえる気配は無いと察した佐助は、諦めて大人しく力を抜いた。
『当たり前だろう・・・間を置いてやったんじゃあお前の変化は解けないじゃないか』
 疲れているところにさらに拍車を掛けるから意味があるんだと仁吉は一人、胸の内で嗤った。

「・・・ぅ…っ」
 小刻みに体を震わせる佐助の、均整の取れた体の所々には己の吐いた精が飛散していた。
「に…きち・・・っ」
 名を呼ばれ顔を上げると、哀願するような目がそこにあった。
 もうやめてくれと、訴えかけている。
『そうだねぇ・・・』
 体力に加え気力も散漫になっている所為だろう。
 変化も半分解けかけていて、犬の耳と尻尾が現れていた。
 その耳に、仁吉が触れようとした時、やはりふいっと躱されてしまう。
「佐助・・・」
 耳元で囁いて、びくんとその体が震えたところでそっと耳に舌を這わせた。
 柔らかい、短い毛並みが舌の上を滑っていくのが心地良い。
「・・・―っぅぁっ」
 ひときわ大きく、体が跳ねる。
「やめ・・・っ仁吉・・・っ」
 悲痛な声を無視して、そのまま軽く歯を立てると、びくびくと体を痙攣させて、
佐助は何度目か分からぬ精を吐いた。
 そのままぐったりと布団に沈み込んでしまう。
 どうやら気を失ってしまったようだった。
『やっぱり耳の先ってのは佐助の性感帯だったんだねぇ・・・』
 そんなことに感心しながら、仁吉はそっと自身を引き抜いて、行為の後始末をしてやり、
己も布団にもぐりこむ。


翌朝、再び変化が解けてしまっていた佐助に、仁吉がひどく怒鳴られる声が離れに響いたという―。