「・・・っあ」
 唐突に触れてきた指先に、体が震える。
 思わず、口の中のものを取り零してしまう。
「・・・やめ・・・っ」
 止まることの無い指の動きに、ぎゅっと手指を握りこむ。
 口から漏れる吐息は荒く、甘い。
「おやおや・・・自分だけよくなられてもねぇ・・・」
 上から降ってきた揶揄するような言葉に、屈辱に唇をかみ締める。
 涙でぼやけた目で、それでも精一杯の意地で、睨みつけると、にやりと笑われ、肌がぞくりと粟立つ。
「・・・っ」
 その余裕が、神経を逆撫でる。
 気に食わない笑みを消してやろうと、己の唇を舐め、湿らせると、もう一度仁吉の足の間に顔を埋めた。
 裏筋を丁寧に舐め上げ、根元から深く咥え込む。
 尖らせた舌先で鈴口を舐め上げる。
「は・・・っ」
 きつく吸い上げながら上下に扱くと、仁吉の唇から切なげな吐息が漏れた。
「・・・」
 上目で、すこし苦し気に眉根を寄せる顔を、盗み見る。
 目が合うと、その少し余裕の消えた表情に、思わず口角を吊り上げた。
「・・・ふん」
 不意に鼻で笑う仁吉に、一瞬、頭の中に疑問符が浮かぶ。
 その所為で、後頭部に伸びてきた手に気付かなかった。
「―っ?ふぅ・・・っ」
 口から、くぐもった声が漏れる。
 急に頭を強く抑えられ、喉の柔らかい部分を突かれて、咽返りそうになる。
 けれど頭を強く抑えられている所為で、吐き出すことも叶わない。
 髪を掴まれ、無理矢理、頭を何度も上下に動かされる。
 苦しさに、涙が零れた。
 手を退けさせようと、その足にきつく爪を立てても、上から降ってくるのは忍び笑いばかりで手が緩む気配は無い。
「―ぐっ・・ぅ・・っ」
 一層激しくなる動きに、苦しさは増す。
 ぼろぼろと、涙が頬を伝う。
 飲み込みきれない唾液が、首筋を這う。
 ほんの僅か息を詰める気配の後、口の中に吐き出される白濁とした苦味。
「―っかは・・・っ」
 ようやっと開放され、飲み下せなかったそれに、何度も咽返る。
 激しく咳き込むその様をまた笑われる。
「し・・・死ぬかと・・・殺す気かいっ」
「文句があるならもうちょっと巧くなってからお言いよ」
 唇を拭いながら誹ると、涼しい顔で言われ、屏風のぞきはいよいよ腹が立つ。
「それより何零してんだい。・・・ったく仕様が無いねぇ・・・」
 呆れた様な溜息。
 思わず、二の句が次げなくなる。
 その、一瞬の隙を突かれた。
 とんっと、肩を押され、反転する視界。
 圧し掛かってくる仁吉に、はたと気付いた時にはもう遅かった。
「・・・っ」
 鎖骨を這う舌に、唇を噛んで声を殺す。
「―ひぁ・・・っ」
 けれど強情を張ったのが悪かったのか、敏感な胸の突起を爪で強く引っ掻かれ、堪えていた唇から悲痛な声が漏れた。
 尖ったそれを、舌先で転がされ、きつく歯を立てられる。
「痛・・・っぅ」
 痛みの中に、背筋を走る快楽。
 それを見透かしたように、仁吉は口角を上げて笑う。
 それが更に、屏風のぞきの羞恥心を煽った。
「・・・・あっ」
 最も敏感な部分に触れられ、びくり、と震えが走る。
 指の輪で扱かれ、鈴口を擦り上げられる。
 頭の中から余裕が消えていく。
「舐めて」 
 己の先走りに濡れた指先を含まされ、思わず、眉根を寄せる。
 それでも、大人しく指に舌を這わせるのは先を期待しているからか・・・。
 そんな己を、浅ましい等と思う余裕は、今の屏風のぞきにはもう無かった。
「ふ・・・っ」
 散々口腔内を弄ばれ、ようやっと、指が引き抜かれる。
 濡れた唇から糸を引いたそれが、後孔に宛がわれ、屏風のぞきはひくりと、身を硬くした。
「辛いよ。力抜きな」
 言われ、ゆっくりと息を吐く。
 途端入り込んできた異物感に、また、力が入りそうになる。
「・・・・・くぅ・・・っ」
 それでも、何度も敏感な箇所を擦り上げられれば、それは直ぐに快楽に変わる。
「ひぁ・・・ぁ・・・」
 少し強引に指を増やされ、圧迫感と痛みに、目を見開く。
 けれどそれすらも、快楽に変わってしまう。
「入れるよ?」
 こくりと、小さく頷くと、指を引き抜かれ、代わりに仁吉自身が圧し入ってくる。
 指とは比較にならないその質量に、背を反らせ、何度も細かく息を吐く。
 ぎりっと、仁吉の肩に掛けた手が、爪を立てる。
「い・・・っあぁあ・・・」
 まだ慣れていないのに動かされ、見開いた目から零れる涙。
 突き上げられる衝撃に、唇からは悲痛な声が漏れた。
「・・・っあぁ」
 それでも、最奥を突かれる度に、突き上げてくるのは快楽で。
「中・・・すごいよ?締め上げてくる・・・そんなに良いのかい?」
 きっとわざと言ってるんだ・・・わかっても、今の屏風のぞきには反論することさえ出来ない。
 ただ、意味を成さない言葉だけが、その口から零れ落ちる。
「・・・淫乱」
 恥辱に塗れたその言葉に、何故か、背筋に快楽が走り抜けた。
「あぁぁ・・・っ」
 自身を強く擦り上げられ、悲痛な声と共に、屏風のぞきは仁吉の手の中に精を吐く。
 一呼吸置いて、その強い締め付けに、仁吉も屏風のぞきの中に己の精を解いた。
 ぐったりと布団に沈み込みながら、肩で息をする屏風のぞきが、胡乱気な目つきで、仁吉を見上げる。
「前から言おうと思ってたんだけどね・・・もう少し丁寧に事を運ばないと・・・女相手だったら嫌われるよ」
 その言葉に、仁吉はふんっと鼻を鳴らした。
「あのね、こっちはわざわざお前さんの好みに合わせてやってるんだよ。・・・おまえさんはちょっと乱暴なぐらいが丁度良いらしいからねぇ」
 にやりと意地悪く口角を吊り上げて言われた言葉に、屏風のぞきの目元にさっと朱が走る。
「―っこの・・・っ鬼畜野郎っ!」
「はっ・・・ひどい言われようだねぇ・・・弱ったお前に精を分けてやったって言うのに」 
 戸板の外で響くのは雨音。
 それでも屏風のぞきがこんな風に怒鳴り散らせるのは確かに仁吉がその精気を性交によってわけてくれたからな訳だが・・・。
「―っあたしゃもう寝るよっ!」
 それを言われるといつも何も言えなくなる屏風のぞきは、歯噛みして、結局ふてくされた様に仁吉の布団に潜り込む。
「はいはい」
 そんな様子に、仁吉が苦笑を漏らすのが背中の空気でわかる。 
 
 それでも、お互い分かっていた。 
 屏風のぞきが屏風に帰らずに此処にいる訳を。
 仁吉が布団を取られても文句も言わずにその体を抱きすくめてくる訳を。

 水無月の夜がまた一つ、雨音に塗りつぶされていった―。