「俺は憑喪神。主は俺自身だ!」

  威勢の良い啖呵が響く。
  たった一発で、吹っ飛ぶくらい弱っちい癖に。
  強く睨め付けてくる眼が面白い。
  ざわり。
  背筋がざわつくような心地がする。
  あたしをそんな眼で見上げてきたのは、お前だけだよ。
 本当に生意気な。
  鈍い音が響く。
  佐助の声が、珍しく低いのは、若だんな絡みだからだろうねぇ。
  そりゃあそうさ。
  許されることじゃあないもの。

「なんで反省しなくちゃぁならないんだ!」

  嗚呼馬鹿だね本当。
  平手なのを有り難く思いなよ。
  犬神はなんだかんだで甘いところがあるんだから。
 若だんなはお優しいのを良いことに、調子に乗るからそうなるんだ。
 怒るのも当たり前さね。
  だけど。
  少ぉし。
  気に食わないね。

「………」

  ほんの少し、指先に気を込める。
  人のそれとは違う、白沢の爪先で、本体の屏風を、なぞりあげてやれば、いとも簡単に、その華やかな表面に一筋、傷が出来た。
  途端。
 屏風のぞきの顔が、歪む。
 散々に打ち据えられ、赤くなった頬が、色を失う。
  震え出した瞳には、隠しきれない怯えの色が滲んでいて。
  ざわり。
  背筋がざわつく。
  震える視線を受けて。
 選んでやるのは、今、一番、お前が恐れてる言葉。
 
「こんな役に立たないもの、早々に破いて捨てるが一番ですよ」

  見せ付けるようにゆっくりと。
 一筋の傷から、指を差し入れる。
  
「ひっ………」

  軽く、指先を曲げただけで、引きつった声を漏らす様に、どうしようもなく心が騒ぐ。
  嗚呼本当に……愉しい。
  屏風のぞきの、つい先程まで生意気に睨め上げてきた視線に、今は縋るような哀願の色が、滲む。
  薄い肩が、怯えに震える。
 あたしだけを、見上げて。
  そうそう。
  それで良いんだよ。
 殴りつけて痛めつけて。
 脅してつけて追い詰めて。
 お前のその生意気に強い眼に、哀願の色を滲ませる。
 腹が立って仕方ない筈のあたしに、縋りつかせる。
  そんな風に、お前をいたぶるのはあたしの役目だもの。
 お陰で吊り上がりそうになる口の端を、堪えるのに一苦労だよ。
  嗚呼お前は本当に。

―愉しい、ね…―