[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
「やりすぎですよ」
呆れたような一太郎の言葉に、守狐は小さく笑う。
「まぁ邪魔立てする気は無いですがね。ちょっと揶揄ってやりたくなるじゃあないですか」
言いながら、思い出すのは先程の、恐ろしい目で己を見下ろす仁吉。
また随分怒らせてしまったと、内心、漏れる苦笑。
本当に、邪魔立てする気は無い。
揶揄する気も無かったけれど、昔のように寄り添って昼寝をしていて、その寝顔に、不意に悪戯心が湧いてしまったのだ。
「人の恋路の邪魔立てばかりしてると、牛に蹴られて死じまいますよ」
夕餉の膳を整えながら言う佐助の言葉に、「馬だろう?」と、一太郎が疑問符を浮かべる。
日も暮れ、夏の終わりを感じさせる涼やかな風が、心地良い。
「牛ね…蹴られて死ぬならまだ良い方だ」
脳裏に、白い神獣がちらと掠める。
あれなら、蹴り殺すでは生ぬるいと、嬲り殺すぐらいはやってくれるだろう。
「それは嫌だねぇ…」
「何の話だい?」
会話が読めぬ一太郎の声に、佐助と二人、交わすのは笑い。
もうすぐ、仁吉も戻ってくるだろう。
それまで自分がいたら、きっと不機嫌そうに顔を顰めるに違いない。
「さて…そろそろ帰るかね…」
腰を上げる守狐に、一太郎が夕餉を食べていかないのかと、引き止めてくれる。
それにゆるく首を振って、視線で、手代部屋を示す。
「これ以上仁吉さんの神経を逆撫でしないほうがいいだろう?」
「夕餉ならおたえのところにたかりにいくさ」と笑えば、一太郎も困ったように笑い返して。
後ろ手に障子を閉め、部屋を辞す。
もう、虫の音が響き始めていて。
夏も終わりかと、何気なく視線を手代部屋にやれば、ご丁寧に結界が張られていて。
思わず、苦笑が零れた。
「まぁね。大事にしてくれるんならそれでいいさ」
小さな呟きを残して、守狐の白い姿が、闇に消えた―。