そうっと、本当に微かに、布団が擦れる感覚に目を覚ます。
離れかける手のひらの中の温もりを、反射的につなぎ止めて。
抱くのはほんの微かな寂しさ。
―もう朝が来ちゃったの…―
起こしたかと、戸惑う気配が、空気を揺らす。
「兄さん」
まだ眠気の残る瞼を開いて。
引き寄せた手に、軽く頬を寄せる。
寝起きの、少し掠れた声で呼び止めれば、松之助の手が撫でてくれるのが心地よい。
「いってらっしゃい」
名残惜しいけれど。
そっと、掴んだ手を、離す。
布団の中から小さく、手を振る、その口の端、浮かぶのは愛しげな微笑。
「…行ってきます」
少し、はにかむように。
松之助が微笑ったのが、空気で分かった。
ぱたん。
ひどく静かに、障子が閉じる。
遠ざかる足音を聞きながら。
結局、抗うことのできない眠気に、一太郎はもう一度、愛しいぬくもりが残る布団に、顔を埋めた。