お隣の小学校の、授業が終わるチャイムが鳴って。
 少し、したころ。
 松之助くんは同じくらすのおともだちと、さよならすると、はしって、幼稚園に急ぎます。

「一太郎!」
「兄たん!」

 いきせききって、幼稚園のお教室のドアを開けると、一太郎くんが、いちもくさんに、やって来ました。

「兄たん、ぎゅっ」
「はい、ぎゅーっ」

 朝と、おんなじように。
 松之助くんは、しゃがみ込むと、一太郎くんを、いっぱい、いっぱい、ぎゅっとします。
 一太郎くんも、松之助くんのお首にしがみついて。
 いっぱい、いっぱい、ぎゅっとします。
 お迎えのときの ぎゅっ は、なんだか、ふうっ と ちからが抜けて、ふわふわしたきもちになります。
 
「おかえりなさぁい」
「ただいま」

 まるで、おうちに帰ってきたみたいです。
 ちゅっと、朝と同じように、一太郎くんが、まつのすけくんのほっぺたに、ちゅうをして。
 ちゅっと、松之助くんも、一太郎くんに、お返しのちゅうをします。
 いっぱい、いっぱい、だいすきを、かえっこして。
 今日いちにち、がんばったのを、いっぱい、いっぱい、うめあわせるのです。

「「せんせーさようならぁ」」
「はい、さようなら」

 佐助先生に、ごあいさつをして。
 ふたり仲良く、お手てをつないで。
 幼稚園の、すぐうらにある、園長先生のおうちに帰ります。
  
 おおきなおおきな、さくらの木の。
 みずみずしい みどりいろのはっぱが、やさしくやさしく、ゆれていました。