ざわざわと、新緑の葉を、風が揺らす。
 昼間は緑の光を透かすそれも、とっくに日が暮れてしまった今は、街灯の灯を微かに透かし、その殆どを、夜の闇に黒く沈めていた。
 もう、5月だと言うのに。
 夜はまだ、随分と寒い。
 
「さっむ…」

 思わず、呟いて身震いすれば、駅まで送ると、隣を歩いていた郭が、小さく、笑った。

「そんな薄着で来るから…」
「昼に帰れると思ってたんだよ」

 暗に、先の行為での郭を責める棘のある声音に、郭はただ、苦笑を零す。
 
「ごめんね」
「…良いよ。別に」

 不意に、顔を覗きこんできて。
 苦笑いのままそう言うから。
 突然に縮まった、近すぎる距離に、思わず、眼を逸らしてしまう。

「それにしても…寒い、な」

 軽く、両腕を擦れば、ふうわり、唐突に、肩を包む温かなぬくもり。

「何…」
「貸したげる」

 着せ掛けられたジャケットは、郭の体温をそのまま残していて、確かに温かいけれど。
 今度は郭が寒いだろうと、視線で言えば、ついと、郭の細く白い指が、今来たばかりの道を指し示す。

「俺の家、すぐそこだから」

 構わないと、笑って言う。
  
「………風邪引いても知らないぞ」
「良いよ。水野が風邪引くくらいなら俺が風邪引く」

 なんとなく、悔しくて。
 そっぽを向いたまま零せば、さらりと返され、頬が熱くなる。

「…ほんとに風邪ひいちまえ馬鹿」
「そしたら水野は罪悪感で、俺のお見舞いに毎日来るよね」
 
 笑顔で、覗き込まれて。
 
「そんなわけ無い、だろ」

 思わず、言葉が、詰まる。
 もう、耳まで熱い。
 何より、そんな自分が想像できたことが、気恥ずかしすぎる。

「俺は水野が風邪引いたら、そうするけどね」

 「心配でサッカーもできやしない」と、涼しい顔で続けられた言葉に、もう、言葉を返すことも出来なかった。