よく眠る。
 もとから主のいない部屋では、お獅子を枕に昼寝をしている姿を、よく見かけてはいたが。
 あれから、あの、火事から。
 本当に、よく眠る。
 まるで、意識を保っているのが、辛いかのような。
 そんな、深い眠り。

「少し、休む」
「ああ、構わないよ」

 小さく、呟くように漏れた声に、ゆるく、笑みを浮かべて。
 そっと、その髪を梳いてやる。
 膝の上に乗った顔は、一太郎もかくやと言うほどに、青白い。
 思わず、その口元に掌を翳しそうになるのを、咄嗟に堪えた。

「ねえ守狐」
 
 その、眠りを妨げぬように。
 ゆるく、その血脈から己の妖気を、流し込んでやる。
 どんなに、気を分けてやったとしても。
 本体が壊れてしまった今、まるで笊に注ぐ水のように、それは簡単に零れてしまうのだけれど。
 それでも、ほんの数刻、屏風のぞきの頬は、色を取り戻し、その呼吸は、幾分か楽になるようだったから。
 
「何だい?」

 目は、閉じたまま。
 うっすらと、色を取り戻した唇が、笑みを刻む。

「また、逢おうね」

 白く、細い指先が、守狐の手指に、絡む。
 ひどく冷たいそれを、きゅっと、握り返して。
 桜色を取り戻した爪に、戯れに唇を寄せる。

「ああ。また。…必ず」

 例え千年の刻を待ったとしても。
 必ず、お前を見つけ出せる自信があるよ。

 柔く、笑みを浮かべながら囁けば、屏風のぞきがひどく嬉しそうに、笑った。