それは酷い夢だった。

只々酷い、という感覚しか残っておらず、具体的な内容など何一つ覚えてはいないのだけれど。
それでも、身体中に不快感がこびり付いている。
その、夢の残滓に眉を顰めてしまう。

「どうした。ぼうっとして」

揶揄するように、覗き込んできた顔に。
何故だか、酷く安堵して。
思わず、きつくその背を抱いていた。

「おいおい、いよいよどうした」

困惑したような声音で、薄い掌が肩を叩く。
その、声に。
抱きすくめた身の、確かな温もりに。
何故だか酷く、安堵した。

「屏風のぞき」
「うん?」

名前を呼べば、確かに応える。

「愛しいよ」

囁けば、かっと、朱に染まる白い耳介。
只々愛しいその温もりを。
守狐はきつくきつく、掻き抱いた。

そうしなきゃならないと、夢の残滓が告げていた―。