「うわ、最悪。最下位や」
「お、俺最上位」

 朝のニュース番組の最後。
 お姉さんが読み上げてくれる、自分の星座の今日の運勢に、シゲは不服そうに、唇を尖らせる。
 ふと、思いついたように。
 
「てゆうかおっさん、誕生日いつなん?」

 と、訊ねてくるから。
 
「10月24日」
「今日やん!」

 口にした日付に、間髪いれずに返された言葉に、そう言えばそうかと、思い出す。
 長い間、特に何をしているわけでも、されたわけでもないから。
 誕生日などと言うイベントごとを、すっかりと忘れていた。

「え、…何かいる?」

 訊いてしまったからには…と、気遣うように上目越しに見上げてくるシゲの頭を、苦笑いで掻き乱す。

「アホ。ガキが気使ってんじゃねぇよ」

 「第一、金が無いから、此処に転がり込んできたんだろ?」と続ければ、そうやけど…と、不満そうに頬を膨らませるから。
 笑って、気にするなと宥めてやる。

「そうは言うてもやなぁ…」

 聞いてしまった以上は、何かしなければと、思ってしまう。
 けれど、松下が言う通り、煙草代も危ういのが、現状だ。
 俯いたまま、考え込んでしまったシゲに、松下が小さく、苦笑を漏らす。

「と言うか。…お前プレゼントより、もっと大事なことがあるだろう」
「え?」

 きょとんと、目を見開くシゲに、苦笑いで、その額を小突く。

「誕生日、祝ってくれる言葉は、まだ聞いてねぇけどな」
「あ…!」

 ようやっと、思い至ったらしく、間が抜けた面を晒すのに、思わず、笑ってしまう。
 こほんと、咳払いなんぞを、一つ零して。

「誕生日、おめでとう」
「はい、ありがとう」

 少し、はにかんだように笑いながら。
 告げられた言葉に、返す声音にも、照れが滲む。

「こんなんでえぇん?」
「十分」

 まだ、納得がいかないというように、見上げてくるシゲの頭を、掻き乱してやって。
 かちり、煙草に火をつける。
 その、口元には、確かに、嬉しげな笑みが、浮かんでいて。
 
―まぁ、おっさんがえぇんやったら、えっか…―

 よく、分からないけれど。
 松下が、十分だというのなら、そう、なのだろう。
 勝手に、松下の煙草ケースから、一本拝借しながら。
 火をつける、シゲの口元にも、笑みが浮かんでいた。


 祝ってくれる、祝う相手がいるというのが、幸せだということに。
 シゲが気付くには、まだもう少し、時間が必要だった。