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―綾取り―


 指で、編む様に。
 細く白い、両の手指の間。
 器用に作り出すのは、紅い幾何学模様。

「何女子みたいなことやってるんだい」

 裸の肩に、市松模様を引っ掛けたままの姿で。
 行儀悪く寝そべったまま、その白い指先に、絡ませるのは紅い細紐。
 行灯の灯が、ゆうらり、幾何学模様の影を、障子に映した。
 
「解けないだろ」

 にい、と形の良い唇を吊り上げて。
 得意げに掲げて見せるのは、紅い幾何学模様。
 掬って、開いて。
 紅が、白い指先に複雑に絡む。
 人の子の、ましてや女子の遊びなんぞついぞ知らないから。
 それが何を指しているのかは、とんと分からなかったけれど。
 細く白い指が、紅を編んでいく様は、綺麗だと思った。

「昔、おたえに付き合ってやってたからねぇ」

 少し、昔を思い出してか、屏風のぞきの目元が、和む。
 自分の知らないその過去を映す目が、少し、気に入らなくて。

「あ…っ」

 細く白い手指に、己の指を絡ませる。
 綺麗に整えられた、紅い幾何学模様が、無残に歪む。
 指の根元、掛けられた細紐を引けば、簡単に紅は崩れ、屏風のぞきの白い手に、絡みつく。

「何…」
 
 反射的に睨みつけてくる瞳を、捕えこむ。
 二つの視線が、宙空で、絡む。
 
「んぅ…」

 自然、重なった唇に、仁吉の手の中、紅に結ばれた白い手指が、微かに、震えていて。
 視界の端、映る白と紅が綺麗だと、仁吉は微かに、その口元に笑みを刷いた。