「うぇぇ……」
身に当たる川風に、情けない声が漏れる。
外出用の羽織を頭から被ったまま、青い顔で呻く屏風のぞきの、そのあまりの具合の悪さに揶揄う気も失せるのか、獺が心配そうに背をさすってやっていた。
「なっさけない人だね…大丈夫かい?」
「………」
反論する元気もないのか、片手を上げるのみの屏風のぞきに、船上の妖たちは苦い笑いを浮かべて。
「屏風のぞき、具合が悪いの?」
佐助にしっかりとかい巻きでくるまれた一太郎は、見えぬ目で心配げな眼差しを向けた。
「……ったく仕様がないねぇ…」
その様に仁吉から一つ、溜め息が漏れて。
「おい」
「………?」
市松模様の肩を不意に掴まれて。
屏風のぞきが青い顔を胡乱げに上げると、頤を指先に掬われる。
「……んっ」
唐突に深く、口づけられて。
流れ込んできた、大妖の気に、屏風のぞきの頬に、血の気が戻る。
一瞬、驚いたように身を強ばらせた癖に。
一拍後には、その指先は縋りつくように仁吉の着物の袂を握っていた。
「…は、ぁ……」
突き放すような唇を離せば、屏風のぞきの唇を、細い糸が伝う。
零れ落ちた吐息が孕む艶に、妖たちはが皆、明後日の方向に視線を逸らす。
一太郎の耳は、佐助がしっかりと押さえていた。
「ありがとうよ」
「…弱っちい癖についてきてんじゃないよ」
「うるさいよ。相手は性悪な神様なんだ。もし若だんなに何かあったらどうすんだ」
だから、ついててやらねばと告げる眼は、弱い癖に、強く睨め付けてきて。
「………」
「………!?に、仁吉さん?」
不意に、強く腕を引かれて。
その胸元に倒れ込んだ屏風のぞきから、上擦った声が上がる。
その上、まるで庇うように頭を抱き込まれたものだから。
一層、訳が分からない。
「暴れるんじゃないよ。川風が当たって困るのは誰だい」
「…………」
その言葉に、屏風のぞきは体の、強ばりを解く。
代わりに、随分と目元が熱い。
やたらと、心の臓がうるさい気がした。
「…何だい。私たちは蚊帳の外か」
呆れたような獺の言葉に、野寺坊が宥めるように肩を叩いていた。