薄暗い土間に、浮かび上がる白い肢体。
 その滑らかな背中には、幾筋も赤い跡が浮かんでいた。

「あぁ…ぅ…」

 いつも、生意気な強い光を湛えているはずの双眸は、泣き濡れて。
 焦点の会わぬ瞳が、怯えたように、揺れる。
 その、全てが、己のが行った仕打ちのせいだと思うと、愉しくて仕方がない。

「…も…いや…だ、ぁ…」

 がたがたと悲痛な程に震えながら。
 傷ついた身体を庇うように、薄汚れた土間を這い逃げる。
 その、傷ついた細い背を踏みつけて。
 乱れた髪を引き掴んで引きずり戻すこともできたけれど。
 その、必要は無いことを、仁吉は知っていた。

「まだ、だよ」

 びくりと、薄い肩が震える。
 とん、とんと、一定の間隔で、己の足下を叩き示す。
 指で招いて。
 ちっちと、猫の仔を呼ぶように、舌を鳴らして、戻れと呼んだ。

「ぅ……」

 ゆっくりと、這い戻ってくる様に、言うことをきかぬ猫の仔を、飼い慣らすのにも似た、優越を感じる。
 逃げられぬ様、囲い込んで。
 己の手の内に、陥落させる。
 それは、ひどく、愉しい。
 己の足元に座り込んだまま、降り仰いでくる瞳の中に浮かぶ、愉悦の色。
 涙に汚れた頬が、愛しい。

「良い子だね」

 ゆっくりと髪を梳きながら。
 耳元に、囁き落とす。
 頤を捉えていた篠鞭を外せば、そのまま、力なくくず折れる、その、白い背に。
 手にした鞭を、振り上げた。



「は…っあ…ぅ…」

 息を乱して、土間に倒れ込むその髪を、引き掴んで。
 顔を上げさせれば、無理な角度を強いられた首筋が、苦しげに震える。
 その様がひどく綺麗だと思った。

「良い子になったご褒美だ」

 焦点が合わず、揺れていた瞳が、見開かれる。
 息すらも、奪うほどに。
 深く深く、口付ければ、震える指先が、きゅっと、袂を握ってくる。
 まるで、縋り付くようなその様に。
 仁吉の瞳に、ひどく愛しげな色が、浮かんだ。


 打つほどに愛おしいんだと言えば、お前は逃げるか。震えるか。
 試してみたいと、仁吉は思った。