ざあざあと。
煩い雨音に、目を開ける。
まだ降っているのかと、身に纏わりつく気怠さに眉を顰めながら。
それでも、まだ自力で動けるうちにと、本体を抜け出す。
途端、身を襲う一層の怠さに、思わず息を詰めながら。
眠る一太郎を起こさぬようにと、そっと、その身を影に溶け込ませた。
「何のようだい?」
手代部屋に入り込んだ途端。
布団の中で、背を向けたまま、向けられた問いに、屏風のぞきはゆるく、口の端を吊り上げる。
「野暮なことをお聞きで無いよ」
言いながら噛み付くように、振り向いた顔に口付ける。
流し込まれる妖気に、青白かった頬に、血の気がもどる。
一拍後には、視界は反転していて。
今度は己が、布団の上に寝転がる。
「随分な夜這いを掛けてくれるじゃあないか」
向けられる、揶揄するような笑みに、返すのは艶然とした微笑。
長雨の所為で少しやつれた頬に浮かべるそれは、常より一層、扇情的に映るのを、知っている。
唇を辿る指に、己から舌を絡ませながら。
上目越し、誘うように、笑む。
「膳を据えてやったんだ。さっさと喰いなよ」
言った途端、喉奥まで、指を差し込まれて。
苦しさに、思わず、涙が滲む。
反射的に逸らした喉が、震えた。
「へえ?言ってくれるねぇ…」
仁吉が浮かべた、いっそ凄艶な笑みに。
ぞくり、背筋が粟立つ。
「お手並み拝見と、行こうかねぇ?」
言いながら、首筋に立てられる爪に。
屏風のぞきは愉しげに、笑った。