「……重い」
背中に預けられたのは仁吉の背中。
軽く抗議の意を込めて肘で押し返してみるが、無言で一層、体重を掛けられた。
手元の筆先が揺れて、帳面にじわり、黒点が広がる。
「あっ…!………仁吉っ」
いい加減にしろと、少し声を荒げても、背中の重みが無くなるわけでも、返事があるわけでもない。
「…………」
一体どうしたと、思案することしばし。
「………仁吉」
一つ、溜め息。
とんとんと、後ろ手で宥めるように仁吉の腕を、叩く。
「後でちゃんと構ってやるから」
途端、無言で、背中の重みが、消える。
振り返れば背を向けて布団に寝転がる影が一つ。
「楽しみにしとくからね」
なんて、揶揄するような声音で。
いつもの軽口を叩いているけれど。
「はいはい」
僅かに覗く耳が、赤くなっているのを、佐助は知っていた。
帳面に向き直る、その口の端、浮かぶのは微笑。
白沢の赤面なんぞ、滅多に拝めるものではないはずなのに。
犬神にとっては、そう珍しいものではない。
なんてことは、白沢は知らない。