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「……っの馬鹿か!?」

 不意に、響いた怒声に、一太郎の肩が驚いたように跳ね上がる。
 そのまま、半ば呆然と声の主、佐助を見上げる幼い視線に気づき、仁吉がわざとらしく、佐助を窘める。

「ほぅら、坊ちゃんがびっくりしてるじゃないか。……荒い物言いはするなって言ってるだろう?」

 とんとんと、あやすように一太郎の小さな背を叩きながら、口角を釣り上げる仁吉の、その小僧らしからぬ表情を、佐助は鼻に皺を寄せて睨みつける。

「誰のせいだと…っ」
「さあ?あたしは耳打ちしただけだよ」

 一太郎を思ってか、主には安心させるような笑顔を見せて。
 押し殺した声で、仁吉を詰るのに、素知らぬ振りで宣えば、佐助が眉をつり上げるのが、見なくてもわかった。

「耳打ちで耳を噛む必要はないだろうがっ」

 結局また、仁吉を怒鳴りつけて。
 今度は部屋から、出て行ってしまった。

「……佐助、どうしたの…?」

 いつも優しい兄やの怒鳴り声に、目を見開く一太郎の頭を、優しく撫でながら、仁吉が楽しげに笑う。

「さあ?…坊ちゃんをびっくりさせるなんて、佐助は悪い兄やですよねぇ」
「………仁吉…?」
「はい?」
「どうして怒られたのに嬉しそうなの?」

 大きな幼い目に見上げられて。
 投げ掛けられた疑問符に、仁吉はただ、笑うだけ。


―どうして佐助は、仁吉だけに荒い物言いをするのかしら?―

 一太郎がその疑問の答えを知ったのは、それからもう少し、大きくなってからだった。