ふと、思った。
 前々から、抱いていた疑問だったけれど。
 口に出来たのは、今日が雨で、冬と言うには生温く、春と呼ぶには肌寒い、中途半端な空模様だったからかもしれない。

「何でお前金髪にしたんだ?」

 ベッドに寝転がって、雑誌をめくっていたシゲの視線が、上がる。
 見つめ返せば。

「…え。今更?」

 と、少し呆れたように笑われた。
 何となくムッとしたのと、そのままはぐらかされそうな気配がしたから。
 一瞬の逡巡を振り切って、再びシゲの視線を占有しかけた雑誌を取り上げる。

「なぁ、何で」
「何?今日は粘るやん」

 ベッドに寝転がって、頬杖ついて。
 揶揄するように、見透かしたように、シゲが、笑う。

「………」

 水野が苦手な、表情。
 言葉に詰まれば、不意に柔らかな笑みを向けられ、手を引き掴まれた。

「ぅわっ?」

 視界が反転したと思った途端。
 ベッドが派手な悲鳴を上げて。
 落ち着いたのはシゲの腕の中。

「知りたい?」

 背後から耳に落とされる声がくすぐったい。
 思わず、身を竦ませれば、笑う気配が、空気を揺らす。
 睨み付ければ、また、笑われた。

「タツボンに見つけて貰えるように」
「は?」

 唐突過ぎる言葉に、怪訝に眉根を寄せて振り返れば、音を立てて口付けられる。

「人ごみん中でも、遠くからでも。すぐに俺やって、タツボンに分かって貰えるように」

 だから、髪を金色に染め抜いているのだと、微笑い告げるシゲに、かっと、頬が熱くなる。

「…嘘吐け…。俺と知り合う前から金髪だったじゃねぇかよ」

 もう、手遅れだろうけれど。
 赤い頬を見られたくなくて、前を向いたまま詰れば、きゅっと、背中から抱きすくめられる。

「うん…。けど、今はそれがホンマの理由」
「…馬鹿じゃねぇの」

 嘘かもしれない。
 シゲはいつだって、水野が望む嘘を吐き出すから。
 それでも、首筋に顔を埋めてくるシゲの声は、ひどく優しかったから。
 信じてやっても良いかもしれないと、水野は思った。