苛々する。
心底、そう思いながら、目の前に置かれた、普段なら絶対に自分からは入らないであろう、喫茶店の、グラスに入れられた量が少ないくせに、値段だけは高いコーラを、啜る。
大きな氷が、ストローに突かれ、からんと、涼しげな音を立てた。
「でね、水野ったらムキになっちゃって…本当に可愛い人だよ彼は」
「ああそうですか」
慣れたはずの東の言葉が、こんなにも神経を逆撫でするなんて。
関西に帰った所為だろうかと、無理矢理、思考を逃がしてみたりする。
「なんだか、水野と居る時より、機嫌が悪いね藤村」
「……気のせいじゃないんですか」
かじり、行儀悪くストローを齧りながら。
単調に返すシゲは、内心、辟易と溜息を吐く。
東京選抜の、郭英士。
嫌いだと、思う。
「妬ましい?」
「は?」
唐突な問いかけに、顔を上げれば、にやりと、口角を吊り上げる顔がそこにあって。
思わず、眉根を寄せる。
「だって、今俺は、藤村より近くに、水野の傍にいるもの」
その言葉に、ぎりと、拳を握り締める。
嫌いだ、と思う。
偶然、街中で出会って。
「やあ」何て、親しげな笑みと共に、声を掛けてきたのは、郭からだった。
「暇だから、少し話そう」なんて誘われて。
そこに水野の名前さえ、出てこなければ、簡単に断ることが出来たのに。
むしろ、水野の名前を出すことが、目的だったんだと、今更思う。
「そう、思とったらええやん?」
鼻で、嘲笑って。
左の口角だけで、笑みを作る。
「ええこと、教えたろか」
「へぇ?何?」
ついと、指先でコーラのグラスを押しやって。
身を乗り出し、郭の白い耳に、唇を寄せる。
「タツボンってキスするとき、めっちゃギュって、目ぇ瞑るねんで」
郭の目が、見開かれるのが、気配で分かる。
満足げな笑みを、唇に刻んで。
「コーラ、ごちそうさん」
そのまま、席を立つと、出口へと、向かう。
「藤村」
呼び止められ、振り返る。
もう、あの気に食わない笑みは、そこには無かった。
「貰うから。必ず」
「…やらへんよ」
薄く笑みを浮かべて。
カラン、ドアベルを鳴らして、外に出る。
生ぬるい春の風が、頬を撫でた。