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指先に走る、微かな痛み。
「―っ」
僅かに眉根を寄せて見遣れば、ぷくりと、小さな血の玉が浮き上がっていた。
文机の上に出した紙で、指先を切ったのだ。
痛みと、僅かに痒みを伴った刺激は、不快感を孕んで。
「夕日…」
ぼんやりと己の指先を見つめながら、呟く。
そう、丸く赤いそれは、夕日のようだった。
この部屋に差し込み、紙を朱く染める、沈み行く夕日と同じ色。
「若だんな?どかしましたか?」
心配気な声に顔を上げると、松之助が覗き込んでくる。
「紙で、指を切ってしまって…」
苦笑しながら言うと、松之助は、更に心配そうに顔を曇らせた。
「大丈夫ですか?」
言われ、指を捕らえられる。
己の目の前に、一太郎の指を翳して凝視する松之助に対して、不意に湧いた悪戯心。
捕らえられた手のまま、そっと、その切れた人差し指を、松之助の唇に這わせる。
「若だんな…?」
小さく開かれたその隙間に、そっと、指先を含ませた。
「名前…呼んで…」
ゆるく微笑しながら言うのと、指を更に押し込んだのとは同時。
僅かに眉根を寄せながらも、松之助は指を受け入れてくれて、切れた傷口に、舌が絡み甘く疼く。
「…ふ…ぁ」
根元まで深く咥え込まれ、ざらりとした温かな感触が、指の股を擽り、思わず、唇から甘さに掠れた吐息を漏らす。
微かに音を立てる水音が、やたらと鼓膜に響く。
「ん…」
余韻を残して、松之助の唇から、そっと指を引き抜く。
絡むのは、ほんの僅かに濡れた視線。
「い…ちたろ…う」
ためらいがちに、名前を呼ばれ、零れた微笑。
松之助も、つられて、照れたように微笑った。
「兄さん」
重ねるは唇。
絡めたのは、お互いの舌と熱。
交わすのは体温。
こっそりと開いた目に映る、松之助の目元を朱く染めるのは、夕日の所為ばかりではないと、一太郎は信じたかった。
菫色に暮れて行く空。
部屋の中が、ゆっくりと薄闇に紛れていく。
全ての物の輪郭が、あやふやになる。
夕闇に紛れて、二人はもう一度、お互いの熱を交し合った―。